『炎上』という言葉がはじめて使われたのは、個人によるブログが普及してきたた2004年ごろといわれている。以降、面白半分に、また揶揄する意味も含めて使われ続けてきた言葉だが、いつしかマーケティングにも活用されていくようになる。SNSによる集客が定番化した風俗業界においても、炎上というキーワードは無視できないものになりつつあるのではないだろうか。
炎上マーケィングとは!?
まずは炎上マーケティングについておさらいしておこう。簡単に言えば、世間からの注目を得るために、不必要な発言を繰り返し自社のSNSをあえて炎上させるマーケティング手法のこと。これによって売り上げや認知度を高めるといった効果が期待できる。しかし非常に高いリスクを伴うマーケティング手法であり、積極的に行うのはオススメできない。
オススメ出来ないとはいえ、炎上マーケティング、またはそれに準ずる手法のマーケティングは現在も後を絶たない。新しいマーケティングとして確立され始めてさえいる。これはどういうことかというとリスクが大きい分だけ、成功した場合のメリットもまた大きいということだ。
炎上マーケティングの失敗例は、枚挙にいとまない。ところが、成功例となると極端に少ない。ネットで『炎上マーケィング』を検索しても、Wikipediaで取り上げているルーマニアのチョコレート菓子「ROM」の事例ばかりが目に付く。参考までに、一部引用を記載する。
このお菓子は1964年の共産党政権時代に作られ、ルーマニアの国旗が印刷された歴史のある国民的なお菓子であったが、近年の若者には「ダサいお菓子」の典型として売り上げが低迷していた。そこでメーカーは若者の認識で「クール」の代名詞と言えば「アメリカブランド」であるという認識を利用するとともに、国民の愛国心を煽ることを企画。第1段階としてパッケージデザインをルーマニアの国旗からアメリカの国旗である星条旗をモチーフにしたデザインに刷新したと告知した。これが狙い通り国民の愛国心に触れて反感を買ったため、「炎上」が発生した。
その後、第2段階としてパッケージを元に戻し「ジョークであったこと」を告知するとともに、「国民の愛国心の再発見をみんなで喜びましょう」と呼びかけた。このキャンペーンは国民の67%に届き、広告換算で300,000ユーロ相当のパブリシティを獲得、スニッカーズを抜いて国内でのチョコレート菓子の市場シェアの20%を獲得しマーケットリーダーとなった。
正直、完全な成功例として挙げられるのはこれくらいしかないのが実際のところだ。とはいえ、完全な成功とまではいえないまでも、部分的には成功している事例はある。例えば一部の芸能人がそうだ。歯に衣を着せぬ発言がたびたび物議をかもし出し、炎上を繰り返しているタレントもひとりやふたりではない。当然多くの批判を浴び、アンチは日ごと増えていく。しかしそれでも仕事が減ることはない。むしろメディアへの出演は増加傾向にある。本当に好感度の低い嫌われ者であれば、テレビに出ることすらないだろう。浴びせかけられる罵詈雑言の裏には、賛美の声も確実にあるということだ。
芸能人だけではない。一般人だって同じだ。鼻につく発言ばかりしているのに、フォロワーはなぜか増え続ける。気が付くといっぱしの権威になっていたり、また炎上によって結果的に知名度を高めた企業もある。規模は大分違うが、同様にトランプ大統領の取ってきた手法も炎上マーケティングの一種と考えることが出来る。
つまり批判と賞賛は表裏一体。批判に対する批判や、部分的肯定、炎上の原因とは無関係な意見など、議論の下地が出来た土地に大勢が一気に流れ込むことによって起こる混沌とした爆発力は無視できない。炎上マーケティングはどう転ぶか分からないという意味ではギャンブルに近い。もっとも分の悪い賭けにはなるだろうが。
炎上させるのは簡単?
炎上を起こすのは難しいことではない。しかしそれをマーケティングとして生かすのは並大抵のことではない。事前の準備、仕掛け、事後の対策、起こりうる炎上を想定したシナリオなど、万全を期する必要がある。結果、あえて炎上マーケティングを狙わずとも、もっと堅実なマーケティング手法のが、長い目で見れば効果的でリスクも少ない、ということになる。それでも多くの企業(個人も)が炎上マーケティングにこだわる理由はなにか?
炎上マーケティングのメリットを考えてみよう。
- 広告費がほぼかからない
炎上によって情報は更に拡散されることになるので、不特定多数の目に触れる。また今まで興味を持っていなかった層にもアピールできる機会を得る。 - 知名度、認知度が飛躍的に上がる
大勢の目に触れた結果として、知名度、認知度はTVでCMを流す以上に上昇する効果が期待できる。ただし知名度、認知度の上昇がプラスに働くとは限らない。 - 誰でも容易に行える
といっても成功するかどうかは別問題。またリスクヘッジを考えた場合は、とても容易であるとは言えないが、SNSに登録しさえすれば誰でも出来るという意味での話。 - 事態を上手に収束させることが出来たなら評価が上がることも
炎上を鎮火させるテクニックについては、また別の機会にお話しさせていただく予定。
ざっと思いつくのは以上の4点だが、成功した場合の見返りが大きいことはご理解いただけると思う。しかし炎上マーケティングならではの優位性があるように、リスクもまた常に背中合わせであることを忘れてはいけない。ひとつ対応を間違えただけで、メリットを超えた大きなデメリットに見舞われるだろう。
炎上そのものよりも、その後の対応が重要
風俗業界は一般の企業と知名度、イメージにおいては比べるべくもない。残念ながらマイナスラインからのスタートだ。最初からマイナスであるならば炎上によるダメージも少ないと考える向きもあるかもしれないが、ことはそう単純ではない。まず良い形での炎上に持ち込むのが至難の業だ。また悪い方向に進むと、最悪営業停止までいくこともありえる。
そもそも知名度、認知度で劣る分、有名人や大企業と違って拡散するまでに時間がかかる。もっともこれは悪いことではなく、時間がかかる=対応を考える余裕がある、と捉えることもできる。なんにせよ、もともと批判にさらされやすいジャンルだからこそ、より慎重を期す必要があるのは確かだ。
結論を言えば、風俗業界において炎上マーケティングを行うのは、リスクが高すぎて現実的ではない。現時点で通用しないと断言するのは早計かもしれないが、行うべきでないのは間違いないだろう。しかし、こうした新しいマーケティング手法を学ぶのは、風俗業界にとっても大いに意味がある。炎上の仕組みを理解し、応用すれば、リスクを軽減し同等の効果を持つマーケティング手法を見いだすヒントにもなるだろう。
また意図的に起こすものばかりが炎上ではない。むしろ意図せぬところから燃え上がってしまう場合の方が圧倒的に多い。昨今では風俗業界でもSNSを活用するのが当たり前になってきた。一般的になればなるほど、誤爆や不適切な表現から、あるいは接客態度や個人情報漏洩など、炎上の引き金となる要素も増えてくる。そんなとき、あわてて間違った対応をして火に油を注ぐことのないように、炎上マーケティングの手法から適切な対処法を学んでおくのはリスクヘッジの面からも有用であると考えられる。